2016年9月30日(金)19:30~21:30に四谷グラッドスペースにて一般社団法人自由と生存の家2016年度総会とシンポジウム『入居者のリスクをいかに受け止めるか?』を開催しました。当日は、自由と生存の家の会員に加え、支援団体関係者や医療・福祉関係者など約25人が参加し、会場が満員となりました。(文責:菊地)
最初に自由と生存の家の大平正巳より問題提起がありました。
自由と生存の家を立ち上げて7年間の経験の中で、生活に必要な費用を自己管理出来ないという問題を抱える入居者が一定数おり、そこへの支援が必要であることがわかってきました。それ以外にも、「近隣住民とのトラブル」「金銭の管理が出来ない」「収入が不安定で家賃等を支払えない」「精神的な疾病に起因する被害妄想」「引きこもり」「コミュニケーションの課題」「言葉の問題」「洗濯機など共同の機器使用に関する問題」「騒音問題」など、日々多くの問題に直面しています。 更に、2015年暮れより、外国人難民の一時受け入れも開始し、家が果たせる役割も増え喜ぶと共に、課題もますます増えており、さまざまな団体の実践に学びたいと思い、今回のシンポを企画しました。
次に、認定NPO法人難民支援協会(JAR)・支援事業部の新島彩子さんより「難民の住宅支援」について報告がありました。
難民支援協会はもともと、アムネスティの活動から始まり、難民支援全般について取り組んでおり、就労先の開拓や政策提言、広報活動などの認知・啓発活動に取り組んでいます。
「難民」とは、「紛争や人権侵害から命を守るために母国を離れ逃れてきた人」であり、アインシュタインやサッカーのハリルホジッチ日本代表監督、クィーンのフレディ・マーキュリーももともとは難民でした。 移民と難民の違いとして、「移民」とは「いざとなったら帰るところのある人」であり「難民」とは「いざとなっても母国に帰ることができない」を言います。母国政府の保護が受けられない人たちであり、拷問を受けていた人もいて、精神疾患を持つ場合もあり、母国の生活を聞くことが難しいのが実情です。
日本では、難民申請数がどんどん増えていますが、昨年の認定数は極めて少なく27人です。シリア難民は60~70人が申請していますが、認定された人は6人に過ぎません。欧米では、シリア人というだけで難民認定をしている国が大半です。
難民申請してから認定されるまで平均3年かかります。認定される人ほど長くかかる傾向があります。入国管理局に申請し、不認定の場合は異議申し立てを行い、それでもダメな場合は裁判となります。
諸外国では到着した空港で難民申請することが一般的ですが、日本では空港で申請すると拘束されてしまうことがほとんどなので、短期滞在を経て申請するのが一般的です。申請前には公的支援はありません。申請すると、2~3か月後にようやく難民事業本部(RHQ)が生活費(保護費)の支給を行います。1日1,500円の生活費+40,000円/月の住居費が出ます。医療費は難民自身が先払いしあとからRHQが精算する形です。現在、約7,000人の申請者のうち270人が受給している状況です。受給できるのは1回目の申請の時だけで、難民申請が裁判になるとRHQの支援は受けることはできません。
申請手続きをすると在留資格は「特定活動」となります。申請時に在留資格がない人は何のセーフティネットもなく在留カードも作れません。在留資格のある人は、難民申請をしてから6か月間は就労禁止。6か月後に就労できる在留資格に変わります。一番困窮しているときには就労できません。就労許可も難民申請の1回目の手続中のみで、裁判になると就労許可は停止になります。特定活動の在留資格を得られれば、在留カードが作れ、国民健康保険にも加入できます。 日本で難民となるためには、多くの証拠書類を自分で出さなければならず、立証責任は難民申請者にあるとされています。
難民の住宅支援については、約400名が新規に登録され、毎日10人前後がJARに相談に来ます。その内約100人は収容されている人、それ以外の300人は外で生活しています。300人の内、半分は頻繁に相談、その内100人は家のニーズがあります。収容されている人は、仮放免の申請ができ、30~40人が仮放免でJARへ相談に来ますが、この人たちは在留資格がないので、セーフティネットが全くなく、野宿を強いられている人もいます。
JARが連携しているシェルターとしては、キリスト教系の団体のシェルターが15部屋、JARが補助金で借り上げ、運営しているシェルターが11部屋、その他に連携している不動産会社があります。RHQの支援金は敷金・礼金は出ません。敷金・保証人の問題は大きい。 JARの事務所の前で寝泊まりしている人もいます。野宿を強いるのは忍びないが、実際は野宿してもらっている状態が続いています。
続いて、一般社団法人つくろい東京ファンド/ハウジングファースト東京プロジェクト稲葉剛さんより「生きづらさを抱えた人と住宅支援」をテーマにご報告をいただきました。
長年ホームレス支援をしてきたましたが、ホームレスになる人は、1990年代は単身の中高年日雇い労働者が典型でした。2000年代からネットカフェ難民など若い世代の問題が現れ、近年は様々な類型の人の住まいの問題が表面化しています。
現在日本の相対的貧困率は16.1%、こどもの貧困率は16.3%である一方で、空き家率13.5%と上昇しています。これをうまくマッチングできないか? 一昨年ビルのオーナーから空きビル利用を提案され、7部屋を個室のシェルターとして利用することにしました。うち1部屋をショートステイの無料シェルターにしています。利用者は支援団体からの紹介で、利用期間は2、3日から1、2週間です。残りの6部屋は「ステップハウス」(支援付きの住宅)として利用しています。 ホームレスの数自体は10年前に比べ約1/4に減ってきました。これは支援団体などの生活保護など福祉制度につなげる取り組みの成果でもあります。
ただ、住宅支援については、「ステップアップ型」が主流で、最初に集団生活、衛生環境、人間関係のトラブルなどに問題がある「貧困ビジネス」と言われる施設に入り、数か月から数年我慢できた人だけが、アパート生活ができるというのが行政の一般的なやり方です。 2010年~11年に池袋で調査したら、野宿している人の約3割が知的ボーダー、4~6割が精神疾患の可能性があり、知的障害や精神障害の人は路上に戻りやすいとの結果が出ました。
従来の支援モデルではホームレス問題を解決できない。こうした現状を踏まえて、東京・池袋では複数のホームレス支援団体が「ハウジングファースト東京プロジェクト」と題した合同のプロジェクトを組み、ハウジングファースト型の支援モデルの導入をめざして活動を続けてきました。つくろい東京ファンドはこのプロジェクトの住宅支援部門を担っています。
ハウジングファーストとは、住まいを失った人々への支援において、安心して暮らせる住まいを確保することを最優先とする考え方のことです。豊島区で6部屋をクラウドファンディングで確保し、ホームレス状態にある人々に対して、無条件でアパートを提供し、精神科医やソーシャルワーカーなど多職種が連携をしたチームが地域でその人を支えていくという手法を予定しています。調査の結果、ハウジングファースト方式の方が従来の方式よりも社会的なコストは削減できることも判明しました。
今回のテーマである「リスクへの対応」については、自由と生存の家と同じ問題を抱えています。つくろい東京ファンドのシェルターは「小規模分散型」であるため、問題が大きくなりにくいのではないかと考えています。また、ずっと暮らすわけではなく中間的な場所なので入れ替わりが多く、むしろ移転後の継続的支援も大きな課題で、他の支援団体との役割分担が必要と思います。
また、専門家との連携、特に精神医療分野での連携は重要です。その他に、福祉事務所への働きかけ、家賃の代理納付と食糧支援などについても取り組んでいます。また 国土交通省では住宅セーフティネット検討委員会を立ち上げその中間とりまとめとして空き家を活用した新たなセーフティネット住宅政策について検討しています。
<質疑>
――それぞれの団体で入居者へのフォローについて、人員やタイミングはどうしているか?
(新島) フォローについては、マンパワーを割けず、そこが課題となっている。仮放免の人は先が見えないので、ある程度時間がかかる。RHQを受けられる人については、20~30代の男性が多いので、初動の段階で介入していかなければならないが、なかなか介入できていない。体制としては、ほぼ2人(兼務)で対応している。
(稲葉) シェルターは、大家さんから借り上げ(サブリース)、利用者の入居費とのの差額で運営しているため、経営的には厳しい。少ない経費の中からアルバイトスタッフで週2回生活相談をしている。人手は足りないので、週に1回ボランティアが集まる日を作って、その日に集中して相談を受けている。
――支援者によるフォローだけでなく、地域コミュニティでの相互扶助で補うということについては?
(新島) アフリカ系と一言で言っても50か国もあり多様で、ミャンマー人やクルド人などに比べても難民の数自体がまだまだ少なく、コミュニティでの相互扶助というのもまだ少ない。
(稲葉) シェルターから地域のアパートに出た人たちの支援が必要だが、だんだん数が増えてきて対応できなくなってきている。地域でコミュニティカフェを作って、皆が集まれるようにする計画もある。